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成田名璃子さん「坊さんのくるぶし 鎌倉三光寺の諸行無常な日常」 [本☆☆]


坊さんのくるぶし 鎌倉三光寺の諸行無常な日常 (幻冬舎文庫)

坊さんのくるぶし 鎌倉三光寺の諸行無常な日常 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 成田 名璃子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/02/07
  • メディア: 文庫



禅寺での修行僧たちの日常を描いた作品です。堅物ではない今風のお坊さんたちが引き起こす騒動が楽しいです。

お布施をくすねた罰で、鎌倉にある禅寺・三光寺に送られることになった、お気楽跡継ぎ坊主の高岡皆道。
不動明王のような強面の禅一、謎めいた優男の高仙ら〝ワケアリ〟の先輩僧侶たちに囲まれながら、慣れない修行に四苦八苦。
そんなある日、修行仲間の源光が脱走騒ぎを起こし――。
すねに傷もつ「悟りきれない」修行僧たちの、青春〝坊主〟小説!
(出版社HPより)

お布施をくすねて、読経を端折っていたのが親にバレた20代の高岡皆道が有名な禅寺に修行に送られます。
同期の源光は大きな寺の跡取り、定芯は仏教好きの修行好き、陽元は脱サラという経歴です。それぞれ、背景の違う修行僧たちが彼らなりの仏教に向き合う姿勢が変わっていきます。

指導する先輩は鬼軍曹のような禅一、隠然たる実力者で謎めいた優男の高仙が主となります。
そして、円諦貫首は飄々とした態度ながらも若僧たちの真意を見抜き、導いてくれます。

修業とは自分自身と向き合うことで、禅というのは生活のすべてが修行だという教えが描かれます。
皆道をはじめとする僧たちがそれぞれに修行というものを受け入れていく様子が好ましいです。

また、彼らが得たものを読経バンドで表現するというパフォーマンスは現代的だなあと思いました。

そんな「仏教とは」「修業とは」「禅とは」という主題ともいえる描写に対して、熱狂的なファン(?)を持つ高仙が寺を出て興した新興宗教が暗い影を落としているように感じ、座りの悪さを覚える終幕でした。

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平谷美樹さん「義経になった男」 [本☆☆]


義経になった男(一)三人の義経 (ハルキ文庫 ひ 7-3 時代小説文庫)

義経になった男(一)三人の義経 (ハルキ文庫 ひ 7-3 時代小説文庫)

  • 作者: 平谷美樹
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/06/06
  • メディア: 文庫



義経になった男(二)壇ノ浦 (ハルキ文庫 ひ 7-4 時代小説文庫)

義経になった男(二)壇ノ浦 (ハルキ文庫 ひ 7-4 時代小説文庫)

  • 作者: 平谷美樹
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/06/06
  • メディア: 文庫



義経になった男(三)義経北行 (ハルキ文庫 ひ 7-5 時代小説文庫)

義経になった男(三)義経北行 (ハルキ文庫 ひ 7-5 時代小説文庫)

  • 作者: 平谷美樹
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/06/06
  • メディア: 文庫



義経になった男(四)奥州合戦 (ハルキ文庫 ひ 7-6 時代小説文庫)

義経になった男(四)奥州合戦 (ハルキ文庫 ひ 7-6 時代小説文庫)

  • 作者: 平谷美樹
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/06/06
  • メディア: 文庫



源義経の影武者にスポットライトを当てた壮大なエンタメ歴史小説です。
全4巻、長い。。。

嘉応二年(一一七〇年)。朝廷が行った強制移住で近江国に生まれ育った蝦夷のシレトコロは、まだ見ぬ本当の故郷――奥羽――を想っていた。十三歳の春のこと、三条の橘司信高と名乗る男があらわれ、シレトコロは奥羽に連れて行かれる・・・・・・。それは、後の源義経の影武者とするためだった。一方、鞍馬山の牛若は、「あなた様は、源氏のお血筋。平家を打倒し、天下に名をはせるお人」という言葉によって剣術の稽古を続けていた。そして〈遮那王〉と名乗ることとなった十六歳の牛若は、奥州平泉に向かう決意をする。壮大なるスケールで、新しい義経を描ききった、歴史小説の金字塔!
寿永三年(一一八四年)九月。義経が検非違使五位尉に叙せられて、京の治安は落ち着き初めていたかに見えた。だが激怒する頼朝は、義経を京に飼い殺しし、雑事ばかりを与えていた。元歴二年(一一八五年)、頼朝は平家の本拠である屋島を攻めるために、義経を追捕使として四国へ向かわせることになった。二人の影武者、沙棗と小太郎とともに戦いに挑む義経。兄・頼朝を信じようとする義経と、頼朝は怨敵であると認識する沙棗。運命が、二人を中心に大きく動き始めていた・・・・・・。
頼朝に利用された挙句、切り捨てられた義経。走者(逃亡者)となり、ひたすら北へと逃げていた義経たちは、文治三年(一一八七年)の春に平泉に到着した。病にたおれ、抜け殻となって夜具に横たわる義経。頼朝の奥羽攻め寄せに覚悟して“その日”の準備を進める藤原秀衡。やがて正気をとり戻し、自分をとり巻く全ての状況を理解した義経は腹を切る。義経の想いを知り、義経の首を切り落とした沙棗は、自分は義経として生きることを決意するのだった。
義経の意志を守り、自らの耳を切り落とした沙棗。義経の死を確認できずに、奥州追討を進める頼朝。やがて文治五年(一一八九年)七月、頼朝は鎌倉から出陣した。一方、平泉藤原氏が滅びることが、陸奥国、出羽国両国の平和を引き延ばせると考える基治の決意を聞いた沙棗。己れもまた、義経として頼朝に追ってもらうために、北へ向かうことを決めた。激しい闘いの中、国衡が、泰衡が散っていく。沙棗が最後に見るものとは果たして・・・・・・?
(出版社HPより)

歴史小説の醍醐味は、作者が史実の中にいかに想像力をを取り込んでいくかだと思います。
その意味では、決して歴史の舞台に登場しない影武者を主人公に据えただけでなく、歴史上の人物の性格や造形も物語に合わせて変えています。更には静御前の出自まで大胆に変えてしまっています。
その上で奥州平泉氏の政治と世界観、その興亡を描いています。
(『影武者』というと黒澤明監督の映画がありますが、あれも武田家の滅亡を描いていましたっけ)

朝廷によって制圧された蝦夷の人々が日本全国へ強制移住させられていたのは初めて知りました。そこで俘囚と呼ばれて彼らだけの部落を作り、朝廷からの俘囚料でいわば「飼い殺し」にされていたというそうです。

主人公のシレトコロ(和名:沙棗(さそう))も近江の俘囚でしたが、金売り吉次に見いだされて蝦夷の故郷である奥州に向かい、義経の影武者として武術をはじめとする教育を受けます。
やがて奥州入りした義経主従とともに平家討伐に向かい、頼朝に追われて平泉に落ち延び…と史実通りに物語は進みます。

けれども、いわゆる義経の英雄譚になっていないのが特徴です。むしろ義経の影は薄いです。
むしろ蝦夷たちの故郷にかける思いや、藤原氏の平泉にかける思いが描かれます。

また、東北の富に目を付けた頼朝をはじめとする鎌倉方や、栄楽にしか興味のない朝廷や貴族たちが対比的に悪役として描かれます。

終幕はやや物足りなさを感じましたが、作者の東北にかける想いが伝わってくる物語でした。

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