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樋口有介さん「海泡」 [本☆☆☆]


海泡 (創元推理文庫)

海泡 (創元推理文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/11
  • メディア: 文庫



樋口さんらしさ満載です。夏、故郷、ミステリ。

大学の夏休みに、洋介は2年ぶりに小笠原へ帰省した。難病に苦しむ初恋の女性に会うのに忍びなく、帰りにくかったのだ。竹芝からフェリーで26時間、平和で退屈なはずの島では、かつての同級生がストーキングされていると噂が立ち、島一番の秀才は不可思議な言葉を呟く。やがて続けざまに起こった二つの事件。常夏の島を舞台に、伸びやかに描いた青春ミステリを大幅改稿で贈る。
(出版社HPより)

小笠原諸島の父島が舞台です。行ってみたい場所ですが、船で26時間となかなか気軽に行ける場所でもなく。

夏休みの父島は観光客に短期のアルバイトに帰省客、そして皆が顔馴染みの島民でごった返しています。
そんな島の気怠さや刹那さが伝わってくるようでした。

物語は樋口さん作品のテンプレート、といっても過言ではないものです。
里帰りした主人公の洋介が幼馴染と再会するうち、洋介と同じように東京に出ていた和希が展望台から転落死します。更に犯人と思われていた和希をストーカーしていたという男も殺されます。
閉ざされた島で洋介は真犯人を探します。

斜に構えた物言いなのに、なぜかモテる主人公という設定もお馴染みです。屈託を抱えた雰囲気のせいでしょうか。

南国をイメージさせる開放的な空気と奔放さと、対照的に閉鎖的な社会が生み出す重苦しさのギャップがいいです。

タイトルに込められた意味がなかなか深いものがありました。

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米澤穂信さん「真実の10メートル手前」 [本☆☆☆]


真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: 文庫



ジャーナリスト 太刀洗万智を主人公とした連作短編です。
さよなら妖精』ではサブキャラだった彼女、正直覚えていませんでした[ふらふら]

「真実の一〇メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」の6編が収められています。

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執──己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。
(出版社HPより)

ジャーナリストとはどうあるべきか、を太刀洗は常に自問自答しているようです。

事件があって、取材をする太刀洗がインタビューを通じて隠された真相に迫る物語はミステリとして読み応えがあります。些細な違和感や発言の齟齬を通じて当事者が隠そうとしているものに、通常とは異なる視点で太刀洗が深く切り込んでいく過程は小説を読むという楽しみがあります。

その一方で報道することの意義・意味・影響といったジャーナリストの在り方と、太刀洗のスタンスから報道機関のありようというものに対する問題提起にも取れました。

怜悧な印象からクールビューティと評される太刀洗のイメージを想像してしまいました。

シリーズ続編の『王とサーカス』も楽しみです。(時系列ではこちらが先のようなんですが、まだ文庫化されていない)

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青崎有吾さん「体育館の殺人」 [本☆☆☆]


体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫



デビュー作とは思えない出来栄えです。
密室トリックは意外といえば意外。成り行きといえばそう。。。

風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。外は激しい雨で、密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚乃は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間に──。“平成のエラリー・クイーン”が、論理に磨きをかけて読者に挑戦! 第22回鮎川哲也賞受賞作
(出版社HPより)

卓球部員の柚乃が嫌疑をかけられた卓球部長を救うために、頭脳明晰と言われている裏染天馬を探し出し、真相の解明を頼みます。

学園ミステリかと思ったら、本格ミステリでした。
地道な情報収集から緻密な推理で卓球部長の無実を証明し、さらに真犯人にたどり着く展開は読み応えがありました。

雨に降りこめられた体育館という密室トリックも、計画的に遂行されたと思われた殺人も証言と状況証拠と遺留品から次々に解き明かしていきます。

更には終章で思ってもいなかった真相が明かされます。

多くの容疑者や関係者が登場するのですが、それぞれにキャラクターが立っていて小説を読む楽しみもありました。
中でもアニメオタクで駄目人間の裏染天馬は私生活のほうはツッコミどころ満載です。アニメネタはまったくわかりませんでしたが ^^;

続編も楽しみです。

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乾緑郎さん「機巧のイヴ」 [本☆☆☆]


機巧のイヴ (新潮文庫)

機巧のイヴ (新潮文庫)

  • 作者: 乾 緑郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/27
  • メディア: 文庫



SF時代小説でありながら、伝奇あり忍者ものあり恋愛ものありと盛り沢山です。

「機巧のイヴ」「箱の中のヘラクレス」「神代のテセウス」「制外のジェペット」「終天のプシュケー」の連作5編が収められています。

天府城に拠り国を支配する強大な幕府、女人にだけ帝位継承が許された天帝家。二つの巨大な勢力の狭間で揺れる都市・天府の片隅には、人知を超えた技術(オーバーテクノロジー)の結晶、美しき女の姿をした〈伊武(イヴ)〉が存在していた! 天帝家を揺るがす秘密と、伊武誕生の謎。二つの歯車が回り始め、物語は未曾有の結末へと走りだす――。驚異的な想像力で築き上げられたSF伝奇小説の新たな歴史的傑作、ここに開幕!
(出版社HPより)

江戸幕府に置き換えるとイメージしやすいです。

闘蟋という闘牛や闘犬のコオロギ版に精密な機巧コオロギが紛れ込んでいたというところから始まり、天才機巧師・釘宮とその娘の伊武の登場とよどみのない展開にすいすい読み進めます。

構成も巧みです。
1話目、2話目と世界観や天府の文化、習俗などが説明され、天府で暮らす釘宮と伊武が描かれます。
3話以降でスケールが壮大になります。
幕府と天帝家の駆け引き、謀略。貝太鼓役(御庭番みたいな?)や忍者集団との暗闘。更には伊武にまつわる謎と天帝家の秘密が解き明かされます。

これだけ詰め込んでも「ごった煮」感がありません。
むしろ初めに思っていた疑問が解消され、伏線が回収されていきます。

表紙のイメージと違って人間味のある伊武が可愛いです。(人間になりたくてお百度参りをするなんて!)


続編も出ているそうで、楽しみです。

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新海誠さん「小説 秒速5センチメートル」 [本☆☆☆]


小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

  • 作者: 新海 誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫



映画を見て、読んでみました。ノベライズは読まないんですが、思わず手に取ってしまいました。
アニメはアニメで、小説は小説でいいところがあります。

「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の連作3編が収められています。

「桜の花びらの落ちるスピードだよ。秒速5センチメートル」いつも大切なことを教えてくれた明里、そんな彼女を守ろうとした貴樹。小学校で出会った2人は中学で離ればなれになり、それぞれの恋心と魂は彷徨を続けていく―。劇場アニメーション『秒速5センチメートル』では語られなかった彼らの心象風景を、新海誠監督みずからが繊細な筆致で小説化。1人の少年を軸に描かれる、3つの連作短編を収録する。
(「BOOK」データベースより)

「桜花抄」は種子島への引っ越しを控えた中学生の貴樹が元同級生で今は栃木の岩舟に住む明里に東京都内から会いに行く物語です。しかし大雪で電車が大幅に遅延してしまい、着いたのは深夜になってから。明里は待っていてくれるのでしょうか。
「コスモナウト」は種子島の高校生 花苗の視点で描かれます。東京から来た転校生の貴樹に想いを寄せますが、告白できずにいます。趣味のサーフィンもスランプに陥っていた花苗は、波に立つことができたら貴樹に告白しようと決めます。
「秒速5センチメートル」は再び東京に出てきて社会人になった貴樹の日常が描かれます。大学時代、社会人と女性と付き合ったけれども、貴樹の心が彼女に向いていないことを指摘され、自分が誰を求めているのかを気づかされます。そんなある日、貴樹は明里らしき女性とすれ違います。

繊細な心理描写は小説ならではです。
寡黙で想いを伝えることに不器用な貴樹はアニメでは表情や素振りで気持ちを推測することしかできなかったのですが、小説ではそれを埋めるように描かれなかった心情が伝わってきました。

「コスモナウト」の花苗の貴樹への片想いも心が痛くなります。
貴樹が携帯でメールする相手は誰なのか、が気になりながらも微笑みを見せてくれる貴樹に自分の想いを伝えたい気持ちの葛藤は青春だなぁ。

自分の経験を重ね合わせて、じーんときちゃいました。



秒速5センチメートル [Blu-ray]

秒速5センチメートル [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: コミックス・ウェーブ・フィルム
  • メディア: Blu-ray



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吉田修一さん「森は知っている」 [本☆☆☆]


森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫



太陽は動かない』の前日譚です。吉田さんがインタビューで言っているところの「エピソード0」です。

南の島で知子ばあさんと暮らす十七歳の鷹野一彦。体育祭に興じ、初恋に胸を高鳴らせるような普通の高校生活だが、その裏では某諜報機関の過酷な訓練を受けている。ある日、同じ境遇の親友・柳が一通の手紙を残して姿を消した。逃亡、裏切り、それとも――! ?その行方を案じながらも、鷹野は訓練の最終テストとなる初ミッションに挑むが……。
(出版社HPより)

産業スパイとして活躍する鷹野一彦の高校時代が描かれます。

18歳になったらAN通信の諜報員として働くことが決まっている、ある種のモラトリアムかと思えば、激しい訓練は始まっているし、諜報員デビュー(?)もしていて、一筋縄ではいかないミッションでのアクションシーンはページを繰る手が止まりません。

一方で東京からきた転校生の詩織に対して鷹野の抱くほのかな恋心が青春小説のようで、これはこれでいいです。ぶっきらぼうに詩織に接する、快活でやんちゃな鷹野が見せる暗い過去や使命のギャップがメリハリがあって読んでいて楽しいです。

『太陽は動かない』でライバル役として登場したキムが今作でも登場しています。因縁としかいいようがありませんね。

続編も楽しみです。


2020年に藤原竜也さん主演で映画化&WOWOWで連続ドラマ化するそうです。
有料なのでドラマは見られないけど、映画は楽しみです。
https://realsound.jp/movie/2018/07/post-228286.html

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北森鴻さん「虚栄の肖像 」 [本☆☆☆]


虚栄の肖像 (文春文庫)

虚栄の肖像 (文春文庫)

  • 作者: 北森 鴻
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/09/03
  • メディア: 文庫



深淵のガランス』に続く、佐月恭壱シリーズ第2弾です。

「虚栄の肖像」「葡萄と乳房」「秘画師遺聞」の3編が収録されています。

舞い込んだ不思議な仕事。墓前での奇妙な花宴。そこで依頼されたのは肖像画の修復。報酬は、桜を活けた古備前というが…表題作ほか、藤田嗣治の修復を依頼された佐月が偶然、十五年前に別れた恋人に再会する「葡萄と乳房」。暁斎の孫弟子らしき謎の絵師を探るうちに思わぬ真実が立ち現れる、書き下ろし「秘画師遺聞」の全三篇。北森ワールドに浸る絵画修復ミステリー傑作連作短篇集。
(「BOOK」データベースより)

花師と絵画修復師のふたつの顔を持つ佐月恭壱に持ち込まれた絵画修復の報酬が、古備前の銘品中の銘品の甕だったことから始まる表題作では冬の狐を名乗る女旗師も登場します。
北森さんの作品ではこういったシリーズの垣根を越えたキャラクターの登場が楽しいです。

続く「葡萄と乳房」「秘画師遺聞」では佐月恭壱のある女性への想いが切なく描かれます。
修復作業先の京都で出会った倉科由美子をきっかけに佐月恭壱の過去が明らかになります。

冬狐堂シリーズもそうですが、物語中で展開される情報量が凄まじいです。
美術品の数々の来歴、製作者のプロフィール、修復師の実態と技術などなど。

ミステリというよりも美術品を巡る隠された思惑と駆け引きを楽しみました。

また、バーを経営する朱明花との会話や相棒の前畑善次朗との遣り取りはほっと一息つけて、物語の緩急になっています。朱明花の父の朱大人が登場すると一気に緊張感が高まるんですが。

北森さんの急逝によってシリーズが2作で終わってしまったのが残念でなりません。



今年一年お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

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米澤 穂信さん「満願」 [本☆☆☆]


満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫



米澤さんらしい人生の機微も描かれた上質なミステリ短編集です。第27回山本周五郎賞受賞作。

「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6編が収められています。

人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ短篇集の新たな傑作誕生。
(「BOOK」データベースより)

様々な立場の登場人物がそれぞれの思惑をもって仕掛ける謎と、それに関わることになった人間に降り掛かる結末は物語として読み応えがあります。

また、ストーリイ展開上の謎が解けたその先にある登場人物の本当の狙いが明かされるシーンで、何度もゾクッとしました。
周囲の浅はかな思惑を超えた実行者の深い洞察と行動力、実現力が明らかになる度にその人生や背景が目に見えるようです。

ミステリのカテゴリに収まらないとても満足度の高い作品でした。

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青崎有吾さん「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」 [本☆☆☆]


風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: 文庫



「裏染天馬」シリーズ第3作です。
前2作と違って「日常の謎」系ミステリとなっています。

「もう一色選べる丼」「風ケ丘五十円玉祭りの謎」「針宮理恵子のサードインパクト」「天使たちの残暑見舞い」「その花瓶にご注意を」の5本の短編と「世界一居心地の悪いサウナ-おまけ-」の掌編が収められています。

夏祭りにやって来た、裏染天馬と袴田柚乃たち風ヶ丘高の面々。たこ焼き、かき氷、水ヨーヨー、どの屋台で買い物しても、お釣りが五十円玉ばかりだったのはなぜ? 学食や教室、放課後や夏休みを舞台に、不思議に満ちた学園生活と裏染兄妹の鮮やかな推理を描く全五編。『体育館の殺人』『水族館の殺人』に続き、“若き平成のエラリー・クイーン”が贈るシリーズ第三弾は、連作短編集。
(出版社HPより)

殺人事件も発生せず、高校生の日常に起きた謎を解決します。気楽に読めます。

また、前2作で登場したキャラクターを主要人物に据えることで造形が深まったように思います。

なかでも、だいぶ打ち解けた(?)裏染天馬と袴田柚乃の掛け合いが面白いです。「ハルチカ」シリーズに通じる軽快さがあると思います。

ミステリもしっかりしていて、面白さもあるバランスの取れた作品でした。

続編「図書館の殺人」が楽しみです。

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仲町六絵さん「霧こそ闇の」 [本☆☆☆]


霧こそ闇の (メディアワークス文庫)

霧こそ闇の (メディアワークス文庫)

  • 作者: 仲町 六絵
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 文庫



初読みの作家さんですが、戦国時代の大和(今の奈良県)を舞台にしたファンタジーは面白かったです。
ただただ切ない物語です。

天文二年、戦国時代の大和。筒井の里に住む狭霧には、病をもたらす物の怪を退治する不思議な力が備わっていた。その力を知るのは、大名に仕える典医であり夫である義伯のみ。ふたりは支え合いながら病者を助けていた。
しかしある日、主君である筒井順興の末子力丸が重病にかかり命を落としてしまう。それを境に、義伯夫婦と幼い息子鷲王は物の怪のわざわいに見舞われ、やがて筒井氏をめぐる大きな争いへと巻き込まれてゆき――。
(出版社HPより)

伝奇小説ですが、おどろおどろしさはなく、むしろ夫婦愛や親子愛に貫かれた作品になっています。

寺社勢力や武士などの室町時代末期の大和国の政治情勢が簡潔に説明され、筒井家の典医として静かに暮らしていた義伯夫婦が大和国の覇権を巡って起こる騒乱に巻き込まれていく様が描かれていきます。
そこに筒井家の出自が絡み、単なる武力をもってしての権力争いではない伝奇小説としてのストーリイ展開の面白さを満喫できます。

そして、明らかになる狭霧の正体と夫と息子を守るため狭霧が取る行動に、想像はついていたものの、仲町さんの描写力でとても切ない気持ちになりました。

他の作品も読んでみようと思います。

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